【自分を奮い立たせてくれた経済小説】高杉 良 作品レビュー【4選】
今週のお題「読書の秋」
はじめに
経済小説といえば、昨今は「半沢直樹」でお馴染みの池井戸潤先生が有名かと思いますが、高杉良先生の作品もとても面白いので、本記事で紹介いたします。
個人的に、池井戸潤先生の作品は
・主人公は勿論、周囲の仲間も魅力的
・読了した後の気持ちは
「明日から頑張ろう!」
というイメージです。
対し、高杉良先生の作品は
主人公が逆境から脱するために奮闘するのは変わりませんが
・ドライで殺伐としている
・読了した後の気持ちは
「俺も戦ってやる!」
という感じです。
一言でいうなら
”自分を奮い立たせるような、熱い話が多い”です!
『エリートの転身』
起業、転職、左遷、解雇――。40歳は人生の転機!
ビジネスの第一線で活躍する4人のサラリーマンが40歳で迎えた転機。
このまま定年まで今の会社で働き続けるのか?
それぞれの人生を賭した決断を描く。
私が初めて読んだ高杉良先生の作品です。
短編集ですが、特に印象に残ったのは
「エリートの転身」「エリートの反乱」。
(「エリートの反乱」は後述します)
「エリートの転身」のモデルになった方は、実在する著名なチョコレート専門店
「ショコラティエ・エリカ」(東京)の創業者なのを知り、大変驚きました。
本作品は、エリート証券マンが理不尽なことから退職することになり、
なんとパティシエを目指すという話です。
主人公の人間的な力強さから、「自分も頑張らなきゃ」と思えるのも良いですが
それなりの年齢になってから、自身のキャリアと全く違う世界に飛び込んでいく姿は心に響くものがありました。
「人生、頑張ればなんとかなる!」
そんな勇気をもらえた作品です。
『懲戒解雇』
大手合成繊維企業の総合企画部の課長・森雄造は、中堅の有望株。
川井常務の拡大強硬の経営方針を批判したことで常務の怒りを買う。
折りしも送られてきた常務を批判する投書を仕組んだとの無実の罪を着せられ、懲戒解雇の憂き目に遭う。
「もし、俺がこんな理不尽な暴力に屈服して依願退職にしろ、懲戒解雇にしろ黙って受けていたら、
両親に対して、妻子に対して、友人や恩師に対して顔向けできると思うか。唯々諾々と従っていたら、俺の人生に陰が出来てしまう……」
会社を相手に、たったひとりの闘いが始まる!
(出典:文春文庫『懲戒解雇』高杉良 | 文庫 - 文藝春秋BOOKS)
先述した短編集『エリートの転身』にある『エリートの反乱』の長編版です。
読んだ後、説明書きで長編版があるということが分かり、あまりに気になったので、すぐ買いに走ったことを覚えています。
「懲戒解雇」
それは会社員人生にとって、
死刑宣告と同義です。
この話は、理不尽なことを端緒とし懲戒解雇を提示されるに至った森が、会社相手に地位確認を求める民事訴訟を行い、勝利するまでの過程を描きます。
現代では、パワハラは厳罰対象となることが増えています。
対し、この時代は高度経済成長期。
そのような言葉の定義もなく、サラリーマンは上意下達の世界で生きていくほかなりません。
そのなか、主人公の森は常務という企業の首脳に理不尽な理由から屈辱的な目に遭わされていくことになっても、耐えがたきを耐え、孤軍奮闘で戦っていきます。
森の人間的な強靭さは勿論ですが、筋の通った考え方、そして企業相手に戦うことに物怖じしない姿には心が惹かれます。
熱い気持ちになりたい方は必見の作品です。
『暗愚なる覇者』
組織は頭から腐る—。
磐石を誇る財務基盤に驕った業界最大手・大日生命の経営陣が暴走を始めた。
吉原周平は、将来を嘱望される「一選抜」の中堅社員としてニューヨーク事務所に配属された。
だが、命じられたのは、社長が海外出張に伴った「特別秘書」の世話。
公私を混同し、恣意的人事と恐怖政治に耽るトップ。
会社中枢の実態を知るにつれ、吉原の憂いは深くなる。
(出典:〔「腐蝕生保」(平成18年刊)の改題〕【「TRC MARC」の商品解説】)
当時、自身が所属していた業界を描いた作品のため購入しました。
そのため、どこの会社を描いているのかすぐにわかりました(笑)
私のいた会社は大日生命と比べたら規模が小さな組織でしたから、
上巻で描かれる吉原の姿は雲の上の人でしかありませんでした。
そのため、あまり感情移入はできませんでした。
しかし、下巻で理不尽な理由から𠮷原がソルジャー部門に異動になってからは、一気に近しい存在となり、感情移入しました。
エリート畑から現場部門へと異動した吉原。それでも逆境に負けず、生保レディたちを取りまとめ勝ち抜いていきます。
吉原の快進撃は見ていて気持ちが良く、自分も戦ってやろう!と熱い気持ちになりました。
下巻から読んでも十分面白いと思います。
『辞令』
大手エレクトロニクスメーカーの宣伝部副部長・広岡修平に、突然、辞令が突きつけられた。異動先は「人事部付」。
有能で人柄も良く、大きなミスもせずに社内の出世レースのトップを走っていた広岡に、左遷される節は思い当たらない。
仕事に対する情熱と正義感では引けをとらず、自他共に認める同期の第一選抜だった広岡が脱落したのは、なぜか?
その内実を自ら調査し始めると、会社内に蔓延する思惑とファミリー企業ならではの病巣が次々と明らかになる。
敵は誰か? 同期か、茶坊主上司か、それとも……?
(出典:文春文庫『辞令』高杉良 | 文庫 - 文藝春秋BOOKS)
オーナー企業特有の不条理から、閑職に追いやられる有能なサラリーマン広岡。
これは広岡の孤軍奮闘を描いた作品です。
本作品は、本記事で紹介している他作品と比べると家庭でのシーンが多く、人間味があふれているので感情移入しやすいと思います。
本作品は会社員にとって避けることのできない人事について触れています。
「そろそろ異動か?」というような方にはおすすめです!
同期にも味方になるどころか足を引っ張るものがいたり、
エゴイストと対峙する広岡にハラハラしながら応援するように読んでいくのはスリルがありました!
終わりに
高杉良先生の作品は、
「俺もやってやろう!」と
自分を強く奮い立たせる作品ばかりです。
時には自己啓発本よりモチベーションを高める効果があると思います。
仕事でつらい状況にある方、異動シーズンが近い方、理不尽なトラブルに巻き込まれている方・・・
ぜひ、悩めるサラリーマンは
高杉良先生作品で奮い立ちましょう!